契約前後では古民家現調の見方が違う!【リアルな設計施工現場の裏側】

ホテル・別荘の設計・建設・運営ノウハウ

はじめに

古民家のリノベーションプロジェクトでは、契約前と契約後での現地調査(現調)の見方が大きく変わることがよくあります。今回のテーマは、富津市にある「湊の邸宅プロジェクト」を題材に、企画からデザイン、設計施工、運営に至るまでのプロセスを通じて、契約前後でどのように現調の視点が変わるのかを深掘りしていきます。

最初にこのプロジェクトに訪れたとき、駅から近いにも関わらず周囲には家がなく、目の前に富士山が一望できるという絶景に心を奪われました。私はこの時、空間のポテンシャルや景色の魅力に惹かれ、不動産契約を決意しました。しかし、契約後にインターンと一緒に再び訪れた時は、室内には雨漏りがひどく、獣の匂いが充満し、雰囲気は暗く、恐怖感さえ覚える状況でした。日本人形が雨漏りしている場所に置かれていたのを見た瞬間、インターンが「怖い!」と叫び、私もビックリするほどでした(笑)。

このエピソードは、契約前と後で見るべきポイントが異なることを物語っています。この記事では、現調の段階で何を重視し、どう判断するべきかを解説します。

1. 契約前の現調:ここでしかできないことがあるか?

契約前の現調は、物件自体の購入価値を見極めるためのプロセスです。最初に訪れる際、気に入った景色や立地が最大の判断材料になります。私の場合も、富士山を一望できるロケーションが決め手でした。

  • 景色や雰囲気の確認: 古民家や物件の立地が持つ雰囲気や周囲の自然環境は、その物件に特別な価値を与えます。たとえば、駅からの距離、周辺のアクティビティ、地域のブランドなどを含めた全体の雰囲気が、ここでしかできない体験を生み出せるかどうかの判断材料になります。
  • 不動産的な価値の判断: 築年数や物件の状態、周囲の発展性なども大切です。しかし、築年数が古ければ不動産価値が低くなる一方で、建築的な価値が上がるケースもあります。手間暇をかけた古い建材や技術は、現代では再現困難であり、それが希少価値になる場合があります。

2. 契約後の現調:何を残し、何を捨てるか?

契約後の現調では、今後のリノベーション計画に基づき、何を残し、どこを改修するかを判断します。ここでの目的は、訪れる人に何を伝え、どの部分を体験の中心に据えるかを見極めることです。

  • 残すべきポイントの決定: 現場での詳細な確認をしながら、古民家の魅力を最大限引き出すポイントを見つけます。例えば、古い梁や柱をどう活かすか、庭や外観をどう整備するかが重要な視点です。私たちの場合、インターンと一緒に現調をした際に、雨漏りの問題や獣の匂いが気になりましたが、これをどこまで残し、どのように手を加えるかが次のステップでした。
  • 何を伝え、どう体験してもらうかを決める: リノベーションの最終目標は、訪れたゲストに特別な体験を提供することです。自然を楽しみたい人に対して、現代のデジタルから離れた「アナログ」な体験を提供することが重要です。例えば、古い建材や自然の風景を活かし、そこでしか味わえない独自のストーリーを作り出すことがポイントです。

3. 不動産的価値 vs 建築的価値

古民家のリノベーションでは、不動産的な価値(立地、築年数、周辺環境)と、建築的な価値(古材、伝統的な建築技法)をバランスよく見極める必要があります。現在、日本の建設業界では人件費や材料費の高騰が続いており、新築を建てるコストも増加しています。しかし、古民家の場合、すでに存在する建築物の価値を活かすことで、新築にはない特別な魅力を提供できるチャンスがあります。

4. 現調時の重要なポイント

契約前と契約後で現調の目的は異なりますが、共通して重要なのは「何を伝えたいか」「どんな体験を提供するか」です。以下のポイントに注目することが、古民家プロジェクトの成功に繋がります。

  • 不動産契約前の視点
    1. 立地や周囲の雰囲気:アクセスの良さや観光地としてのポテンシャルをチェックします。
    2. 景色や環境:物件から見える風景や自然環境が、リノベーション後の魅力にどう繋がるかを判断します。
    3. 建物の構造やスペック:建築的に再現が難しい部分や手間がかかる部分があるかを確認します。
  • 不動産契約後の視点
    1. 何を残し、何を捨てるかを決定する。
    2. 空間の中心となるポイント(見せ場)を設定し、どの部分を強調してゲストに伝えるかを計画します。
    3. その場所でしか得られない体験を探し、どう感じてもらいたいかを考える。

結論

契約前後では、現調の目的が大きく変わることを理解することが重要です。

契約前は「この物件を買うべきか?」という視点で、不動産的価値を確認し、購入する価値があるかを判断します。一方、契約後は「何を残し、どの空間を魅力的に仕上げるか?」という視点で、建築的価値や設計の方向性を具体的に決めていくプロセスとなります。

また、物件の現調で見るべきポイントは、立地の雰囲気、物件から見える景色、建物自体の構造や内部の状態です。これらの要素をしっかりと見極めることで、不動産価値を最大限に引き出すリノベーションを成功させることができます。

関連記事

この記事へのコメントはありません。